うれしの土曜夜市に行ってみた! 日常の延長線上にある「なんかいい」

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嬉野温泉の商店街本通りで長年続く「うれしの土曜夜市」。嬉野の夏の風物詩です。

大村屋・北川
私も小さいころから、土曜夜市が楽しみでした。歩行者天国で、道路の真ん中を堂々と歩ける非日常感。でも、日常の延長線にあるような安心感がある嬉野らしいイベントです。

筆者は、ここ数年は嬉野に通っています。その中で、幾度となく「うれしの土曜夜市」の存在は耳にしており、気になっていました。

以前は「土曜風鈴夜市」という名称で、7月中旬〜8月上旬に毎週1回やっていたそう。徐々に開催回数が減っていき、現在では年1度の開催になっています。長年続いてきた夏の風物詩です。

周囲の嬉野市民にどんなイベントなのか聞いてみると「夜市って、なんかいいよね」「特に何というわけじゃないけどいいよね」みたいな、フワッとしたコメントしか聞こえてきませんでした。

どういうこと?これはもう、行かないとわかりません。

18時45分、外へ出て驚愕!

16時半ごろ、ぼくは嬉野温泉商店街の本通りを車で通過しました。しかしながら、嬉野のまちは「土曜日の夕方」の域を超えない程度の人出でした。

「本当に土曜夜市は盛り上がるのか?」と不安を覚えつつ、18時45分にもう一度外に出た瞬間、ぼくは驚きました。

旅館大村屋前の道路は既に車で詰まっており、シーボルトの湯そばにある広大な駐車場は満車でした。ぼくは、この駐車場の「満」を初めて見ました。

さっきまでいつも通りだったまちに、人があふれています。いったい、どこから人が湧いて出てきたのか。

まだ歩行者天国は始まっていないにも関わらず、歩行者天国の開始を楽しみに待ち侘びる人がたくさん。既にあちこちで、食べ物のいい香りが。

十八親和銀行(第2駐車場)では、ナイトマーケットと称し、数多くのキッチンカーが軒を連ねていました。

ぼんやりしていると、みるみるうちに人が増えていきます。「これは先に食事をとった方がいいのか」と直感したぼくは、早速何か食べてみることにしました。

ぼくがチョイスしたのは、豚レバーと豚ホルモンを甘辛いタレで炒めたものを乗せた「スペシャル丼」でした。たしかにそんなものを食べたことはありません。紛うことなき「スペシャル」です。

めっちゃスペシャル

いわゆる「テキ屋」っぽい品物ばかりではなく、各飲食店が出店しているため、個性豊かなメニューも豊富です。「キーマカレー」や「ミートタコス」に「くずバー」などなど。

商店街のポテンシャルを感じながら、何を食べるか考えながら歩くのは楽しいと思います。

19時、歩行者天国スタート! まだ増える人

19時になり、歩行者天国がスタートすると、道の真ん中に卓球台が置かれました。すぐに「わあっ」と子どもたちが集まります。

道の真ん中で「ストラックアウト」も設置されていました。車道で「ストラックアウト」なんて、とんでもない非日常です。

たしかに人はみるみるうちに増えてはいるんですが、会場が広いため、ストレスを感じるほどの人混みにはなりません。なんともちょうどよいバランスで落ち着いています。

そもそも、いくら歩行者天国とはいえ、大勢が通行する道の真ん中で「ストラックアウト」や「卓球台」を設置すると言うのは、なかなかな大胆さです。しかしながら、通行の妨げになり得るゲームを煙たそうにする人なんていません。

みんな「そりゃ土曜夜市だから、道の真ん中に卓球台もあるよね」というくらいの風情で歩いていきます。この「余裕」が、土曜夜市のアットホームさを演出していると思いました。

ステージイベントがスタート! 雰囲気は学園祭

歩行者天国の開始と同時に、会場の各所でステージイベントがスタートします。

ステージの出演者は嬉野市民です。土曜夜市は、嬉野市民の文化活動の重要な発表の機会でもあるのです。

特別なタレントが出演しているわけでもないステージに、たくさんの人が笑顔で集まり、みんなで拍手を送ります。

あら、よく見たら、大村屋の北川さんも当然のようにバンド演奏をしているじゃないですか。メンバー紹介で、楽器の名前だけでなく、お仕事の屋号と一緒に紹介されていました。

家族や友達の発表を見て、そして出演者と一緒に夜市を巡る。あぁ、これは嬉野市民の学園祭なのかなぁ。

いったいみんな何をしにきたのか

この土曜夜市の不思議なところは「別に何かメインとなる大きな催しがあるわけではない」ということです。

普通は夏のお祭りといえば「花火」とか「山笠」とか「盆踊り」とか。何かメインとなるような、催しがあるものです。それを目的に人が集まります。

家族や仲間が出演するステージはある。手づくりのゲームはある。でも、何か他では見られないような特別なものはありません。

集まるのはただ地元の人、人、人。子供に関しては、かなり多い。まちの人、全員来たんかなって感じです。

周りをぐるりと見渡すと、何人も「手を振っている人」を見かけます。知り合いを見つけたのでしょう。

歩行者天国を歩いていると、目の前で同時に3か所で「おォ!」「やァ!」「あらァ!」が起こったことがありました。すると、一斉に別々の立ち話を始めたせいで道が詰まってしまったのです。……そんな、稀有な体験もしました。

これはもう、大規模な「パーティ」なんです。ぼくの地域でも似たようなものはあります。公民館の数だけ、町内会の予算で開催される地域の夏祭りです。

あの公民館の夏祭りがでっかくなったのが「嬉野夜市」なのだと思います。

いつも商店街でお仕事しているあの人が、今日は子供と手を繋いで笑っている。

いつも何か理由をつけて、丸ぼうろをおまけしてくれる姿だけが、そのおばちゃんの姿ではありません。ベイ・シティ・ローラーズに合わせて、ミラーボールの中で踊り狂うのも、そのおばちゃんの姿なのです。

商店街では人が生きていて、暮らしているのだと、改めて実感しました。そこに混ぜてもらったような、そんな感覚。それが、ぼくから見た「土曜夜市」でした。

うれしの土曜夜市は「なんかいい」のままでいい

CHECK!
  • 歩行者天国で味わえる地域のパーティ
  • 日常の延長線上にある嬉野・夏の風物詩
  • 特に何というわけじゃないけどなんかいい

ぼくは結局、一時的な市民となって「うれしの土曜夜市」を楽しみました。

「夜市って、なんかいいよね」「特に何というわけじゃないけどいいよね」

最初は嬉野市民から聞いたこのコメントに不安を覚えていましたが、今では納得できます。コメントがフワフワして当然です。だって、フワフワしてるから。そして、このフワフワしてるのがいいんだから。

自由に気の向くままに、フワフワ過ごせるのが「土曜夜市」の魅力です。嬉野は土曜夜市が終われば、嬉野・塩田・吉田の3地区で開催される花火大会が待っています。嬉野の夏、これからが本番です。

執筆者
大塚 たくま
ライター。嬉野温泉暮らし観光Webガイド編集長。月に一度、嬉野温泉に宿泊した取材活動を2020年から継続中。